はじめに
先日、とある賃貸物件を借主側として契約したのですが、、、 ちょっと気になることがありました。
その物件は、「敷金償却(敷引き)」が設定されていたんですね。 敷金償却とは、預けた敷金のうち、返却時に一定額を差し引くという特約です。
それ自体はいいんですが、 仮に借主の故意過失による汚損破損などで原状回復費が発生していた場合、敷金償却分が充当されるのか? されないのか? という点が不明だったんですよね。
退去時にモメるのもイヤなので、色々調べてみました。 ところが、大手サイト同士で解説が対立していまして、、、
大手サイト同士で解説が真反対!?
以下、「敷金償却」で検索したときに上位に現れる、スーモ、CHINTAI、いえらぶの3サイトの見解になります。
スーモ(敷金償却は原状回復費とは別計上派)
敷金償却とは?敷金や礼金、原状回復費用との違いはある?二重請求やペットがいる場合のトラブル回避
敷金償却は、「敷金」とつきますが、敷金償却で設定された額は借主に返却しないという意味で使われることが一般的です。そう考えると、退去時に返却しない礼金に近いものだと考えるとわかりやすいでしょう。
天下のスーモさん。 敷金償却分は「礼金に近いもの」で、原状回復費用は別計上だそうで。
CHINTAI情報局(敷金償却は原状回復費に充当される派)
敷金償却とは?償却の仕組みを理解して退去トラブルを回避しよう
敷金償却金は本来、物件の原状回復に充てられるお金だ。そのため、退去時に原状回復費用を別に請求された場合、入居者は原状回復費用を二度支払ってしまうことになる。これが、敷金の二重請求だ。 敷金償却金は退去時に返却されないため、礼金と同じような意味と説明されることもあるが、前述の通り、この2つはそれぞれ違う意味を持つものだ。敷金は償却金も含め、退却時の原状回復のために支払ったお金であることを押さえておこう。ただし、原状回復費が敷金の額を超えた場合には、追加請求を受けることになるので注意が必要だ。
CHINTAIさん。 敷金償却金は原状回復に充てられるお金で、これを別請求するのは二重請求にあたるそうで。 礼金みたいなもんだとするスーモさんとは真反対ですねぇ。。。
いえらぶ(敷金償却は原状回復費に充当される派)
敷金償却とは?礼金の仕組みとは?正しく理解しておかないとトラブルになることもあります
敷金償却は、敷金の一部を返金しないため、返ってこない一時金である礼金と同じような意味で理解してかまわないと紹介するサイトも多いです。 しかし、「敷金償却」は「礼金」とは別物であることを理解しておくことが大切です。 敷金償却という名目で原状回復費用を契約時にもらっています。 あらかじめ設定していた最少額の中で原状回復工事ができた場合、追加の原状回復費用以外を借主に請求すると、それは二重請求になってしまいます。
「礼金とは違げぇんだよ!」とこれまたスーモに喧嘩売ってるような解説(笑 CHINTAIさんといえらぶさんは同じ見解ですね。 その他のサイトも概ねそんな感じでした。
というわけで、、、
うーん、どっちやねん(´゚д゚`)
民法での敷金の定義
ちなみに民法における「敷金」の定義は以下のようになっています。
「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃借権に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」(改正民法622条の2)
そして「敷金償却」について、各社の解説を図解にまとめると以下のようになります。
つまり例として、
- 敷金:10万円
- 敷金償却:4万円
- 原状回復費:2万円
とあったとき、 敷金償却分を原状回復費に充てるかどうかで、
- 借主への返還:4万円
- 借主への返還:6万円
と敷金の返還額に差が出てしまいます。
個人的には、CHINTAIやいえらぶの解説にあるように、敷金償却分に原状回復費は含まれるほうがしっくりきますね。 敷金は借主の債務を精算するためのものなので、敷金償却といっても敷金に準ずる処理が行われるのが妥当なのかなと。
結局、法律に全てが書いてあるわけではないので、法律にズバリ書いてない場合、どういう解釈が妥当なのかという話になってくるわけです。
SUUMO編集部へ問い合わせ
この点について、スーモ編集部に問い合わせてみました。 回答の抜粋がこちら。
敷金償却は「敷金」と名前に含まれておりますが、 民法で定義されている法律用語である敷金とは異なり、 法律用語ではございません。 そのため、「敷金」と「敷金償却」は名前は似ておりますが、 別物としてとらえていただいた方が良いかと思います。 また、敷金償却の使い道については、前述の通り、 法律では定められていないため、物件の貸主によってさまざまです。 契約書に「敷金償却分は原状回復費に充てる」という旨が 明記されていれば、原状回復費に充てられます。 敷金償却物件については、必ず契約書をご確認いただくのが 良いかと思います。 今回お問い合わせいただいた図解の例Aについては、 契約書に「敷金償却分は原状回復費に充てる」という記載がない場合の 事例として紹介しております。 このケースでは図解の通り、 原状回復費の2万円は敷金償却4万円とは別途支払う必要があります。 ”契約書に「敷金償却分は原状回復費に充てる」という 記載がない場合の事例”という説明が抜けていることにより、 わかりづらく申し訳ありません。
うーん??
- 「敷金」と「敷金償却」は別物
- 「敷金償却」は法律用語ではないし使い道は定められていない
- 「敷金償却分は原状回復費に充てる」と契約書になければ貸主の自由
- よって原状回復費は敷金償却分とは別に支払う必要がある
ということかな?
敷金償却は法律用語じゃないから云々、ってのはなかなか無理筋じゃないですかね。。。 敷金償却って、「敷金」を償却するってことですよね。 敷金償却が敷金と別物なら、一体何を償却しているというのだ(笑
契約書に「敷金償却分は原状回復費に充てる」と書いてなくたって、デフォルトで敷金に準じた処理をするのが妥当なんじゃないのかな? むしろ別計上にするためには「原状回復費は敷金償却分とは別途請求するものとする」とか書かないといけないのでは。 うーん、今ひとつ納得感のない回答だ。。。
というわけでスーモ編集部の対応は、「基本的にうちは間違ってませんが、解説をちょっとだけ修正します」というものでした。
他の法律家の見解は?
他の人にも聞いてみよう、ということで、宅建資格も持っている顧問税理士の先生に軽く問い合わせてみました。
結果、
- 貸主にとって見解が分かれてトラブルになりがちなところ
- でも礼金や権利金とは違う
というどっちつかずの回答。。。
その後、Kenビジネススクールという宅建などを扱う資格学校で代表を務める法律家の田中嵩二先生に聞いてみました。
田中先生は法律のプロフェッショナルで、 楽待で専門的なコラム も執筆されています。
でまぁ、田中先生のお話では、
- 敷金償却分に原状回復費が含まれない(別途請求される)というスーモの解説はちょっと違うように思う
- これは判断が難しい、改正民法での判例もまだ少なく、裁判になれば最高裁まで行くんじゃないか
ということでした。
というわけで、 田中先生はどちらかというと「敷金償却分に原状回復費が含まれる派」のようですが、 現時点では法的に確実な答え(最高裁判決)は出ていないようです。。。
そういう状況であり、賃貸人と賃借人で敷引部分の扱いの解釈が異なるとモメる原因になるので、できれば契約書に敷金償却分と原状回復費の関係を記載しておいたほうがよいでしょう。
まとめ
- 敷金償却分に原状回復費が含まれるかどうか、法的な解釈は定まっていないようだ
- できれば契約書に敷金償却分と原状回復費の関係を記載しておいたほうがよい
個人的にはやっぱり敷金償却分に原状回復費は含まれるのが妥当だと思います。 そのへん法律で明確にしてほしいところですね。
以上、 ご参考になりましたら幸いです。