格安通販ハンコのウソ

はじめに

皆さん、ハンコはどこで作っていますか? 近年では通販でハンコが作れて、価格も安く納期も早いので、 利用している方も多いかと思います。

ただ、私も利用してみたのですが、 色々納得のいかないことがあり、結局返品するに至りました。 その過程で色々調べて分かったのですが、 格安通販ハンコサイトの宣伝にはウソがあります。 皆様が買ってから後悔しないよう、そのあたり、書いていきます。

ハンコの意味と現状

まずハンコというものは、 契約時などに押して本人の意思を示す大事なものです。

当然、その印影には唯一性、つまりオリジナリティが求められます。 同じ印影のハンコが複数あってはいけないわけです。

昔の印鑑は手彫りでしたから、1本1本異なる印影が自然と出来上がりました。 しかし今は機械彫りと言って、彫刻機と呼ばれる機械を使って自動で彫ります。 これにより、オリジナリティに大いに問題が出てきているのです。

ことのはじまり

私は印鑑を新調しようと思い、 以下の5本の印鑑を、格安通販ハンコサイトで注文しました。

  • 自分の実印(印相体)
  • 自分の銀行印(篆書体)
  • 自分の認め印(印影持ち込み)
  • 妻の実印(印相体)
  • 子供の銀行印(篆書体)

印材は今流行りの(?)チタンを選択しました。

しかし、届いた印鑑を見て愕然としました。 「なんだこの画一的な印影は…」 完全に、既存のフォントを機械で彫って円の中に収めただけ。 家族の印影を見比べても、字体が同じもの同士の名字の部分は 見分けがつかないくらいほぼ同じ印影。

販売元に色々と問い合わせた結果、 格安通販ハンコサイトのウソが色々とわかりました。

「同じ印影はない」は本当か?

格安通販ハンコサイトの説明文を読むと、 「人間が一つ一つデザインし、手仕上げをするので、同じ印影ができることはない」 といった記述があります。

ハンコ作成の工程については、以下のようになっていると、 Webサイトなどでも記述があります。

  1. 人間が印影をデザイン
  2. 彫刻機で荒彫り
  3. 人間が手仕上げ

手間のかかる荒彫りを機械でやり、その他を人の手でやるという。 これだけ見れば、オリジナリティのある印影ができそうに思いますが、 実態は全く異なっていました。

「人間がデザイン」のウソ

人間がデザインする、というと、 デザイナーが1つ1つオリジナリティのある印影を イチから作ってくれているように思いますが、 ここで行われているのはそういうレベルのものではありません。 既存のフォントをPC上でちょこっといじるだけ というレベルです。 字体の同じ家族の印鑑の名字部分を見比べると、 ベースのフォントは全く同じで、 ほぼ見分けがつきません。 目をこらすと微妙に、線の先端の長さが少しだけ違う箇所が1~2箇所ありましたが、 違いはそこだけです。 文字の形も、線の太さも、角度も、全く同じ。

これを「人間がデザイン」というのは、優良誤認の誇大広告ではないでしょうか。

「手仕上げ」のウソ

最後に人間が手仕上げするので同じ印影はありません、といった記述もあります。 はっきり言います、これ、ウソです。

私は「手仕上げ」というと、機械で荒彫りしたあとに、 職人さんが少し彫刻刀で印面を削ったりして、 同じ印影にならないようにするものだと思っていました。

ところが、届いた印鑑の印面を見たのですが、 (悪い意味で)すごくキレイ でした。 そう、まるで機械で彫っただけであるかのように…。

販売元に問い合わせたところ、衝撃の回答が。 「手仕上げは、印影を変更するものではございません」 とな。 は? 印影が変わらないなら、手仕上げってのは一体何をやってんだ? 印面を拭いてキレイにするとか、そんなレベルなんでしょう。

ということは実際には、 彫刻機で自動で彫ったものそのままの印影 ということになります。

それを裏付ける話として、 掘る前に「印影確認」といって印影の画像データを送って貰えるのですが、 実際の仕上がりもその画像データと全く同じでした。 つまりPCでフォントを組んだだけの画一的な印影を、 これまたデータ通りに彫る自動彫刻機にかけただけ。 印影に人の手が入った形跡は一切ありません。

何となく「手仕上げ」というと「手彫り」の印象がありますが、 「手仕上げ」と「手彫り」は全く違います。 「手仕上げ」を「手彫り」であるかのごとく印象操作 しているとしか思えません。

これも優良誤認の誇大広告ではないでしょうか。

「チタン印鑑」のウソ

さらに致命的な話を1つ。

近年流行りのチタン印材ですが、 チタンは手彫りできない のです。

つまり、印材にチタンを選択している時点で、 印影は彫刻機で彫ったものがそのまま出てくる、ということです。

印鑑は手彫りすると、谷の部分は彫刻刀の跡で凸凹しているものですが、 機械彫りの場合はそれがなく平坦です。 私の印鑑もチタンでしたが、 印面の谷の部分も、すごく整っていてキレイでした。 一切人の手が入った形跡なし。

チタンは耐久性があるとかどうとか宣伝されてますけど、 印鑑本来の役割を考えたら、印材としては不適格なんじゃないでしょうか?

考察

私は彫刻機を使うこと自体は否定しません。 全て人が彫るとコストもかかりますし、 効率化して安価にハンコを提供できるなら、 彫刻機の使用はアリだと思います。

しかし、銀行印や実印といった大事な印鑑について、 オリジナリティなく画一的な印影を作ってしまうのはダメ だと思います。

つまり、まだ印影デザインの時点でそれなりのオリジナリティがあれば、 それを彫刻機で彫ってもさほど問題はないでしょう。 「どうやって彫ったか」ではなく「印影にオリジナリティがあるか」が大事なのですから。 あるいは、彫刻機で荒彫りしたものを、仕上げに手彫りを行い オリジナリティを出すのもよいでしょう。

しかし現状、格安通販ハンコサイトでは、以下のようになっています。

  1. 印影デザインにオリジナリティなし(ほぼ既成フォントのまま)
  2. 自動彫刻機で荒彫り(荒彫りと言いつつこれが最終形)
  3. 手仕上げでは印影変更なし(清掃程度?)

これって、 三文判と大差ない ですよね。 画一的なものを機械で量産してるんだから。 同じ名前、同じ字体で印鑑を注文したら、ほぼ同じものが出来上がるんじゃないでしょうか。

こんな印鑑を銀行印とか大事な契約書とかに使って、大丈夫なんでしょうか…?

おわりに

結局私は納得がいかなかったので、 印鑑5本すべて返品し、返金してもらいました。

印鑑だけがセキュリティを担保するものではないとはいえ、 これは酷すぎると思います。 安くて早いのはいいことですが、 印鑑本来の役割をないがしろにし、 三文判のようなノリで銀行印や実印が量産されている現状。 そして優良誤認の誇大広告。 印鑑業界、こんなんでいいんでしょうか。

そして、「安ければいい」と安易に飛びつく利用者側にも問題があると思います。 (えー…私もその一人だったわけですが ^^;)

その後私は、手彫りで印鑑を作ってくれるお店で、薩摩本柘で実印を作り直しました。 → 私が使ったお店(参考)

一ヶ月くらいかかりましたし、お値段もそこそこしました。 でも、手彫りによってしっかりと印影にオリジナリティのある、 満足の行く印鑑を作ってもらえました。

質の高い印鑑を、相応のお値段で作ってもらう。 そしてそれを自分の分身として末永く大事に使う。 それが、本来の健全な姿なんじゃないのかなと思います。

あなたの印鑑作りの参考になれば幸いです。

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